大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和39年(ツ)11号 判決 1965年2月19日

上告人(被控訴人・被告)

水上建設興業株式会社

外二名

代理人

土家健太郎

被上告人(控訴人・原告)

佐々木勝憲

外六名

代理人

熊谷正治

主文

原判決を破棄する。

本件を函館地方裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人土家健太郎の上告理由について。

上告人らの援用する訴外大竹今朝徳の本件建物買取請求権の行使は昭和三八年一月一四日であること、しかるにそれより先、被上告人らから右訴外人を相手取り、建物所有による敷地不法占有を理由として建物収去・土地明渡の訴訟が提起され、被上告人ら勝訴の判決が昭和三七年一月二五日確定していたものであることは、原判決の適法に確定した事実である。原判決は、訴訟中に行使することのできた買取請求権をその口頭弁論終結後に行使しても、その効果を訴訟上主張することはできないものと解すべきである、とする。

案ずるに、借地法に規定された建物買取請求権は形成権であつて、その行使以前には買取の効果を当該訴訟上主張することを得ないのであり、行使をまつて初めて口頭弁論終結後に新たな法律効果を生じるものといわなければならない。建物買取請求権の行使は、建物収去による土地明渡の請求権を消滅させることになるけれども、その性質は、後者に本来附着していた瑕疵の主張ではなく、地上建物保護の政策的理由から建物の買主に認められた対価的取引の強制締結の効果の主張たるに止まるから、口頭弁論終結時までに当然その行使が原告たる建物の買主に期待されるわけのものではなく、従つて、口頭弁論終結前にその行使が可能であつたとの一事を以て、終結後に行使された場合の法律効果が爾後の訴訟において主張されることを禁ずるのは失当とせねばならない。そして、この理は、その爾後の訴訟が右収去明渡の確定判決に対する請求異議の訴訟であつて、右建物買主自身が原告として買取請求権行使の効果を主張する場合たると、本件のように土地所有者から建物の借家人に対する明渡訴訟であつて、その被告が家主の行使した買取請求権の効果を訴訟上援用主張する場合たるとで異なることはない。

(もつとも、右借家人の入居が先の訴訟の口頭弁論終結時以後であつたとすれば、更に考うべき余地なしとしないが、本件では、上告人らの入居は昭和三〇年四月一四日と確定されているから、この点の問題はない。)従つて、右主張を許さずとした原判決は法律の解釈適用を誤つたもので、論旨はこの点において理由がある。

よつて、民事訴訟法第四〇七条第一項に従い、原判決を破棄して原審に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。(伊藤淳吉 臼居直道 倉田卓次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例